第34章 緊急事態、柱合会議
桜は事を軽んじた訳ではなく、怖く感じないからと言ってその男が豹変しないとは限らない事もきちんと分かっていた。
だが、皆の表情からこれ以上深刻に話せば同行を断る者が出てきてしまう空気を感じ、"柱の同意" と "自身が身を削る事" を天秤に掛けた結果 暴行を受ける覚悟をした上でそう発言したのだ。
そして その行為が命を落とすかもしれない危うい事だとも分かっていたが、 "既に失った筈の命" という意識が心の底にあった事と自己犠牲に慣れた性格故に 杏寿郎に『私は死にません。』と約束したにも関わらず、矛盾するようにその危うい道を選ぶ事へのハードルは依然低いままだった。
一方、杏寿郎は恐怖から体が言うことを聞かなくなり 自身を治療すら出来ずに命を落とす事を最も懸念していた為、同行を許可しない柱がいても全くいない訳でなければそれで十分だと考えていた。
そして桜が起こり得る事態を予想出来ていない筈が無いからこそ、その言葉に眉を顰めていた。
その険しい顔のまま声量を抑えて桜に向かって低い声を出す。
杏「暴行について君は軽んじていないと言ったが、やはり麻痺している所がある様だな。帰ったら詳しく話をしよう。」
杏寿郎はそう言うと既視感のある桜の後ろめたそうな表情を見つめた。
杏「命危ぶまれる道を事前に増やしておく必要は無い。全ての柱に付いていかなくとも君は十分使命を全う出来るだろう。君の事情をきちんと話さないのなら俺は他の柱との同行に賛成は出来ない。」
「……分かりました。」
桜は複雑そうな顔のままではあったがしっかりとした声で返事をするときゅっと口を結んだ。