第33章 準備期間
暴行現場は大学の部室棟が多かった。
そこで暴力を振るわれている最中、その場に他の学生が偶然入って来て桜を保護してくれたことが何度かあった。
しかし安堵に涙が溢れそうになった時、保護して抱き締めてくれていた筈の優しい男は皆決まって桜の傷付いた様子を改めて見ると途端に目の色を変えて顔を殴りつけるのだった。
そして "どんなに良い人でも自身はその人を豹変させてしまう" のだと桜は理解した。
(でも…杏寿郎さんは違う。暴行される様子も見ても、傷付いた様子を見ても心配しかしなかった。)
一方、杏寿郎はすっかり嫉妬を忘れ心配する気持ちが強くなっていた為 その問いに答えられずにいた。
杏「元々嫉妬は自身でどうにかすると約束したので君がそんな事を訊く必要はない。むしろ自身を抑えられなかった俺を責めるべきだと思うのだが。」
杏寿郎はそう言いながら小さな体を見下ろして優しく頭を撫でると、眉尻を下げながら困ったように微笑んだ。
暫くそうした後いつまで経っても黙っている桜の顔を上げさせ からかうような笑みを向ける。
杏「それとも取り消した約束をまたするか。主従関係になってしまうかも知れんぞ。」
「良いですよ。」
縋るような顔で即答する桜に杏寿郎は思わず眉を寄せた。