第33章 準備期間
杏「夢…。おかしくさせた、か。」
「夢については心当たりがあります。」
そう言うと桜は千寿郎にしたように温かい気持ちを持つように努めながら目を閉じる。
すると桜を抱き締めていた杏寿郎は目を大きくさせた。
杏寿郎が動揺したように体を揺らしたのを感じると桜は ぱちっと目を開き伺うように杏寿郎を見上げる。
「……出来てましたか…?たぶん、私が名乗る前にも杏寿郎さんはこれを体験していたかと…。」
杏寿郎は真剣な顔つきでその問いに頷いた。
杏「うむ。覚えがある。今でも夢と錯覚しそうだった。暴力はこの強い幸福感を再び求めた結果なのだろうか。あとはユキの推測通りなのだろうな。
――― "出来ない筈の事を出来た"
君の存在への知識がない彼等は自身が何をしたのかを理解もしていないだろうが、その "事実" が気分を高揚させ優越感のような感情を持たせたのだろう。」
それを聞くと桜は杏寿郎から視線を外してまた胸に顔を埋めた。
「杏寿郎さん…私には貴方しかいないです。あんな事を言ってごめんなさい。もう嫉妬で苦しくさせたくないです。どうしたら気持ちが楽になりますか…。」