第33章 準備期間
杏「では失礼します!!」
「失礼します…。」
槇寿郎の部屋を出ると杏寿郎はパシッと桜の手首を掴み、ずんずんと離れへ向かっていく。
「あ、あの…夕餉がもうすぐなので離れへ行かなくても、」
杏「本当に此方で良いのか。俺は構わんが。」
それを問われると桜は黙って俯いた。
―――タンッ
離れの奥の部屋へ入ると杏寿郎は襖を音を立てて閉め 明かりを点けた。
杏寿郎はぐいっと桜の腕を引いて抱き寄せると先程の言葉に対して何も訊かず 深い口付けを始める。
桜は後ろめたさから最初は受け入れたが "時間が取れない時にこれ以上されてはまずい" と思い直すと胸を押した。
その弱い力では杏寿郎の体を離すことなど出来ないが 今回はそれを感じた杏寿郎が眉を顰めながら自ら離れた。
杏「何故拒んだ。俺がどうしてこうしているのか分かっている筈だ。やはり君が俺を選んだのは十五より後…男が怖くなった後に初めて怖くないと感じた男が偶々俺であったという小さな理由故なのか。もし他の男が初めてだったのなら君は呆気なくその男の元で…こうしてその…赤い、顔を…、」
そう珍しく言い淀みながら杏寿郎が桜の肩をぎりぎりと力を込めて掴むので桜は痛みから思わず顔を顰めた。