第33章 準備期間
槇寿郎が助けたのは一ノ瀬家の嫁でも次男、三男でもなく、一ノ瀬家の当時跡取りであった長男、勇重である。
つまり、一ノ瀬家の長男の証である『勇』を受け継ぐ父、勇之の娘である桜まで血が続いたのは紛れもなく槇寿郎のお陰であった。
「一ノ瀬家が藤の花の家紋の家なら "この時代へ来た時 そちらに飛ばされるのが普通なのでは…" と思ったのですが、どちらにせよ一ノ瀬家の人間は煉獄家を頼って私を預けたのでしょうね。…あ、でも頼勇さんの奥さんにされてたかな。」
冗談を付け足すと槇寿郎はどういう事か訊こうと口を開いたが 笑顔の杏寿郎からただならぬ空気を感じて思わず口を閉じた。
杏「それは君が拒めば良い話だろう。何故そのような発想に至る。迫られれば承諾したという事か。」
「え……あの、今のは冗談で、それに杏寿郎さんと会っていなければの話です…。頼勇さんは怖く感じなかったですし、あんなに……必要と…され、れ……ば…………、」
杏「そうか。それについては後で二人きりの時にきちんと聞こう。」
杏寿郎の目の奥が不穏な色を帯びているのを見てしまった桜はその後の杏寿郎と槇寿郎の話を冷や汗を流しながら俯いて聞いていた。
槇寿郎は杏寿郎のさっぱりとした性格からは想像出来なかった執着する様子に驚き 桜を少し憐れむような目で見ていたが、珍しい鬼の話になると興味深そうに聞いていた。