第33章 準備期間
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杏「父上、只今帰りました。」
槇寿郎の部屋の前に杏寿郎と桜が挨拶に行くと、中から人が動く気配がして "入れ" と短く返事がくる。
杏寿郎がスッと襖を開けると布団を片した綺麗な部屋で着崩さずに槇寿郎は座って読書をしていた。
それに二人とも少し目を大きくするも何も言わず、杏寿郎は自身の傍らに置いた酒に手を遣る。
杏「土産に酒とつまみを買ってきたので今度またお酌をさせて下さい!!」
桜もその言葉に合わせて頭を下げると槇寿郎は二人と酒に柔らかい視線を向けたが、二人の手元を見て口を薄く開いた。
槇「お前ら…一度は昼前に帰ると言ったのにこの時間に帰ったのは何故だ。その指輪が理由か。」
その言葉に体を揺らしたのは桜のみで、杏寿郎は相変わらず堂々としている。
杏「はい!!!」
「…やっぱり早く帰って体を休めるべきでしたよ。」
桜は杏寿郎の元気な声に少し責めるような声色を出した。
それを聞くと杏寿郎は眉尻を下げる。
杏「今日は指令が来ていない。見廻りをしたら今夜は体を休めると約束する。」
槇寿郎はそれを聞くと昨夜何か疲れる事があったのだと察し、指輪の事を忘れて更に呆気にとられた。