第33章 準備期間
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杏「そういえば君を抱き締めてもふわふわしなくなったな。」
水琴が簪を抱き締め深く礼をして出ていったのを見送ると、杏寿郎は振り返って不思議そうな声色を出した。
「え……?何でだろう…多分使おうと思えば使えると思います。前は無意識に………無意識……、」
桜はそう呟くと目の前の二人をちらっと見つめる。
「……そういえば暴力を振るう前、皆決まってすごく幸せそうな顔してた…もしかして……、」
ユ『相手からの好意を糧に与えることができる力だ。そこは満たしている。だが何故あのような男共の為に…。』
杏「力?以前、慌てふためいて妖術みたいなものだと言っていたがそもそも何なのだ。」
笑みを消して真面目な顔で問う杏寿郎に桜は少し困ったような顔を向けた。
「私も昨日知ったんですが、 ユキが持っている幸福感を与える力です。それを私が無意識に共有して使っていたみたいです。男の人に意識的に使ったのは千寿郎くんにだけだと思います…。」
杏「なるほど。おそらく恐怖を感じた事で本能が自衛しようとしたのだろう。相手に害意を持たせないようにな。…だが結果 皆が暴力を振るったのなら逆効果だ。何故そうなってしまうのかは分からないが…。」
「自衛…じゃあ怖がれば…また………、」
そう呟くと桜はもどかしそうな顔をした。