第32章 ※ちぐはぐな心と体
「前の時代の定番といえばお揃いの指輪とかだったんですけどね…。」
桜が何の気無しにそう呟くと杏寿郎はパッと顔を明るくさせた。
杏「結婚指輪か!!」
「い、いえ!恋人でも一緒の指輪を付けたりするんです。大正時代にも結婚指輪ってあるんですね。あ、では婚約指輪も…?」
目を丸くする桜の頭を撫でると杏寿郎は桜の横にごろんと寝転がる。
杏「歴史は浅いが結婚指輪はあるぞ。婚約指輪は聞いたことがないな。今まではキリスト教徒でもないのに協会で式を挙げ 指輪を交換するなど如何なものかと思っていたが指輪なら分かり易い上に生々しさも無いな!!」
買うことが決まったかの言い様に桜は眉尻を下げた。
「あ、あの、でも…結婚はしていませんよ。」
遠慮がちな声を聞くと杏寿郎は笑ったまま寝返りを打って桜の方を向く。
杏「もう決まった事だ。」
何となくその笑顔の下に不穏な感情がある気がして桜は思わず口を噤んだ。