第32章 ※ちぐはぐな心と体
杏「ここだな。」
そう言って杏寿郎が入った広い部屋には明かりが灯り、布団もきちんと二組敷かれていた。
杏(結局手を焼かせてしまったか。明日よくよく礼を言わなければならないな。)
杏寿郎は布団の上に胡座をかいて桜を太ももの上に座らせると額に優しく口付けを落とした。
杏「桜、部屋に着いたぞ。」
桜はそれに応えるように瞼を上げると、タオルを被った杏寿郎の頭からまだ水が滴っている事に気が付き眉尻を下げる。
「きょ、杏寿郎さん…早く髪を拭いてください…!風邪引いちゃいます…!!」
そう言いながら桜が心配そうに手を伸ばして冷えた髪に触れると、杏寿郎は目を大きくしてタオルを掴む。
杏「タオルは脱衣所に置いてきてしまった筈だが…よもや部屋について聞いていた時に被せられたのだろうか。」
桜はその光景を容易に想像できてしまい、不思議そうにする杏寿郎を見ながら思わず頬を緩ませた。
杏寿郎はそんな柔らかい雰囲気になった桜の様子を見ると首を傾げ、軽い気持ちで確かめるように赤い耳を優しく撫でた。