第32章 ※ちぐはぐな心と体
その際その仲居はずっとタオルを差し出し続けていたが一向に気が付いて貰えず、礼を言って踵を返す杏寿郎に思い切ったようにタオルを被せた。
大部屋を出る際、水琴が何か言いたそうな複雑な顔をしたが、杏寿郎はそれに頭を下げて部屋をあとにした。
――――――
杏寿郎が桜の部屋に戻ると桜は寝てしまったかのように目を瞑っていた。
杏「桜…?部屋の話をつけてきたぞ。すぐに行こう。」
そう声量を抑えた声で言って抱き上げると 桜は起きていたようで目を瞑りながらもこくんと頷いた。
「ごめんなさい…こんなお外にいる時までご迷惑を…。」
杏「明らかに俺が悪いだろう。その体質も君のせいではない。勿論心配にはなるが、接していて嫌だと思った事は一度もないぞ。」
そう言いながら廊下へ出ると、杏寿郎は不謹慎だと思いつつも頬を緩めた。
杏(愛いな。これ程余裕がないのに俺のシャツを抱き締めていたのか。)