第32章 ※ちぐはぐな心と体
杏(彼等は隣に入っていたのか。桜の声を他の男に聞かせるとは…迂闊だった。)
杏寿郎はそう眉を顰めながら桜の部屋へ入ると布団に桜をそっと置き、優しく頭を撫でてからすぐに廊下へ出て行った。
(……あれ…杏寿郎さん…………?)
桜は熱い体のまま部屋に一人になると不安になり、近くにあった杏寿郎のシャツを引っ張ってぎゅっと抱き締めた。
(杏寿郎さんの…お日様みたいな匂いがする………。)
杏寿郎は廊下を大股で歩きながら人の声がする方へ向かった。
杏(誰も廊下を歩いていないな。二年ぶりに水琴さんが帰ってきたのだ。夫婦二人きりで過ごしているか、もしくは慕っているここの者達と…、)
角を曲がると声の出所と思われる部屋に明かりが灯っていた。
杏寿郎は思わず廊下を走ると格子戸に向かって大きな声を掛ける。
杏「お邪魔して申し訳ない!!!部屋の事で頼みたい事がある!!どなたか出て来て頂けないだろうか!!!!」
気の張った杏寿郎の声に部屋の中の楽しそうな声は慌てたものに変わり、すぐさま戸が開いた。