第31章 ※歩み寄ること
杏寿郎はすぐに拒まない桜を暫く大きな目で見ていたが、それ以上は手を出さずに赤い顔で口を覆ったままの桜の頬に手を当てると固く閉じている目元を親指で優しく拭った。
杏「……桜。すまなかった、泣かないでくれ。」
杏寿郎がそう静かな声を出して優しく抱きしめると桜はハッとしたように目を開け、杏寿郎を受け入れるように背中に腕を回した。
「すみません…!これは辛くて出た涙ではありません。杏寿郎さんに触れられると何故なのか良く分からないのですが…自然と出ちゃうんです…。」
杏「そうか。」
杏寿郎は体を離すと安心したように穏やかに微笑み、桜の頬を甘く撫でた後ちらっと襖に目を遣ってからまた顔を近付ける。
「…………?」
女「桜さま…。」
「ふあっ!!……は、はい……!」
廊下から掛けられた声に桜が体を震わせると 杏寿郎はにこにこと楽しそうな笑みを浮かべてその様子を観察していた。
桜は杏寿郎が人の気配を事前に察知していたのだと気が付くと顔を赤くして眉を寄せる。
女「えっ!?いらっしゃる………ほ、本当に奥さまとは別のお方だったのですね……あ!す、すみません!お風呂の準備が出来ました…。遅くなってしまって申し訳ございません。ご案内しますので支度が出来ましたらお声掛けください。」