第31章 ※歩み寄ること
杏「俺は今日まさに君が暴行を受ける姿を見たのだぞ。あれは数に数えない程に軽いものなのか。そうだとしたら君の心は酷く麻痺している。」
「…あっ!!ち、違います…!ちゃんと怖かったですし痛かったです…。ただ杏寿郎さんが来てくれたから…助けられたのは初めてなので、そちらの印象が強くなっていたんだと思います…。」
それを聞くと杏寿郎は安心したように小さく息を吐き、桜の頭脇についていた腕を曲げて片肘をつくと再び口付けをし始めた。
「…ふ、ぁっ……まっ…て!……もう!」
杏「むぅ。」
また舌を入れられそうになった為 桜が自身の口を手で覆うと、杏寿郎は眉を寄せて不服そうな顔をする。
鼻が触れそうなほど近くにあるその不満そうな顔を見上げながら桜はくぐもった声を出した。
「杏寿郎さんの目を見れば、欲情ではなく心配や不安…のような理由から触れているのは分かります。…なので腑に落ちません。抱き締めるだけで事足りるのではないのですか……?」
そう言われると杏寿郎は瞬きをしてから片腕で桜をきつく抱き締める。
それに桜がほっと息をつくと、杏寿郎は唐突に耳を喰んだ。
「…っ!!…杏寿、」
杏「俺達のするあれは欲情したからするだけのものであったのか?君を愛したい。頼む。」
そう頼まれるも桜は耳を刺激された後にそのまま囁かれた事で余裕を失くし、すぐに答える事が出来なかった。