第31章 ※歩み寄ること
桜は少し呆けた後、ハッとして杏寿郎の胸を力一杯押す。
「杏寿郎さん、前々から思っていたのですが返事だけ良いのは質が悪いです!そして ここでこれ以上触れるのは絶対に、」
杏「跡をつけておいて良かった。」
杏寿郎は聞こえているのかいないのか、桜の言葉を遮るようにそう言うと熱い指でそっと噛み跡を撫でた。
桜はその感触に身震いすると眉尻を下げて杏寿郎を見上げる。
「……頼勇さんが止まれたのは跡のおかげではなくて杏寿郎さんが来てくれたおかげだと思いますよ。」
杏「跡を見て驚かなければ俺が来たとき口付けぐらいはされていたかも分からんぞ。」
そう言うと杏寿郎は余裕を欠いた心配そうな目を桜に向けた。
「……いざとなればユキの体にもなれます…そんな顔しないで下さい…。さっきの話のせいで杏寿郎さんは心配性になっちゃってる気がします。私が被害に遭っていたのは五年も前までの話ですよ。」
その言葉を聞くと杏寿郎は一瞬ピリッとした空気を出したが眉を顰めてそれを抑えた。
そしてその様子を心配そうに見つめる桜の左頬を確かめるように優しく撫で、困ったように眉尻を下げる。