第28章 藤の花の家紋の家と癒猫様
ユ『悪かった。泣かないでおくれ。だが、桜。いくら治せると言っても命を落としてもおかしくなかった。…これからはなるべく杏寿郎の元から離れないでくれ。』
桜は少し何か言いたそうな顔をしたが、ユキの真っ直ぐな瞳を見ると口を閉じて小さく頷く。
それを見てユキは安堵したように息をつき この屋敷の人について他愛もない話をし始めたが、暫く経って桜がどことなくもじもじとしている事に気が付いた。
ユ『桜?どうしたんだ。』
「ゆ、ユキ……おトイレの場所分かる…?ここの人が厠とか、お手洗いって呼んでる場所…。杏寿郎さんいないし、襖開けて男の人と鉢合わせたらって思うと人も呼べなくて…。」
ユ『ああ、分かるよ。私は使わないけれど 人は毎日何回も使うものだろう。私が側にいる。付いておいで。』
そう言われると桜は ぱああっと顔を明るくさせて大きく頷いた。
―――
「ユキ…?そこにいる……?」
手洗いの戸を閉めると桜は外で待っているユキの名をずっと呼び続けていた。
ユ『いるよ。だから私も中に入ろうと言っただろう。ここをお開け。』
「もう!それは駄目なの!」
ユキの不思議そうな声色に桜は思わず笑いながら断る。