第28章 藤の花の家紋の家と癒猫様
ユ『桜は私の特別な子だ。そして杏寿郎は桜の番いだ。この子の父が一ノ瀬家を救ったと言っていたが。』
「それはもう勇重さん知っているの!知らなかったのはユキだけよ!それなのに杏寿郎さんにあんなに冷たくしてー…!」
桜に強く言われるとユキは耳を伏せた。
ユ『仕方がないだろう。鬼が来たとき私は山にいたんだ。槇寿郎の事を見ていたら風貌から杏寿郎が息子だと分かっただろうが…。それより桜、態度が少し冷たいのではないか。せっかく…、』
「まだあるんだから!何で記憶消しちゃったの?昨晩からユキが私放ったらかしてぽわぽわ温かくなってる間に色々思い出したけど…。」
それを聞くとユキは赤い目を見開いて身を乗り出した。
ユ『……何をだ。』
「お父さんの大学の事、みのるの事、前の生活の事…たぶん大体思い出せてると思う。でも…、もう泣いたりしないから消さないで。お願い。」
そう眉尻を下げて言うと、ユキは暫く黙った後大きなため息をついて鼻先で桜の頬を撫でた。
ユ『……分かった。だからそんな顔をしないでおくれ。』
その懐かしい仕草に桜はしばらく目を細めて幸せそうな顔をしていた。
だが、その顔から段々と笑みが消えていく。