第28章 藤の花の家紋の家と癒猫様
杏「先程君は二十二と言っていたが、家系図で見た享年の事だろうか。」
通された部屋で二人きりになると、杏寿郎は静かな声で尋ねた。
それに桜は小さく頷く。
杏「二年前に消えた時は二十歳、今年が享年の二十二歳、か。今はまだ行方知れずなだけで生きているのだろうか。それとももう見つかり、亡くしたばかりで混乱しているのか…。」
そう言うと杏寿郎は桜の手をぎゅっと力強く握った。
「……杏寿郎さん…?」
杏「君と違って俺は君が死ぬ覚悟をしていない。君を死なせないと決めているが、ずっと側で守ることは叶わない。」
杏「……俺を遺して逝かないでくれ。」
桜は杏寿郎のものと思えない弱気な言葉に目を見開く。
そして力強く手を握り返すと眉を寄せた。
「私は傷を治せます。よっぽどの事がない限り死にません。それに、私がここの時代へ飛ばされたという事は、私が役に立てる年齢のうちに鬼を狩り尽くすことが出来るのだと思います。」
そう言うと杏寿郎が視線を合わせる。
その顔には溌溂としたものではなかったが笑顔が浮かんでいた。
杏「うむ。そうだな。あと少しだ…。鬼の居ない平和な世界で刀を持たずに君と蛍でも見に行きたい。」
その言葉に頷くと 桜も眉尻を下げて微笑んだ。
杏寿郎がその笑顔に向かって手を伸ばそうとした時 慌ただしい足音が近付いてきた為二人はパッと襖へ目を向けた。