第24章 不思議な縁と晩酌
槇「…今日が大事な日だということは分かっている。だが、俺は息子達に…特に千寿郎に合わせる顔がない。」
一応は付いてきたが、槇寿郎はまだ居間に入る覚悟が出来ずにいた。
それを聞いて桜は眉尻を下げる。
(そりゃそうよね…。お母さんが…瑠火さんが亡くなられたのは千寿郎くんが物心つく前…。槇寿郎さんを支えてくれていたのが瑠火さんだったのなら、槇寿郎さんは千寿郎くんにまともに接した事が本当に少ないはず…。)
桜は膳を一度廊下の隅に置くと、眉尻を下げたまま槇寿郎を振り返った。
「でも、いつかは彼と向き合わないといけない日が来ます。今日は絶好の機会だと思うんです。…それに、先延ばしにすればする程難しくなるのは槇寿郎さんも分かっているのでしょう?」
桜の珍しくしおらしい声を聞いて槇寿郎は眉を顰めながら視線を逸らす。
槇「向き合う事をあの子が望んでいるとは限らない。」
それを聞くと、桜は『父上に頭を撫でられた』と興奮して走ってきた千寿郎を思い出して胸がきゅっとなった。
「槇寿郎さんは接する事が少なくとも、千寿郎くんがどんなに良い子かは知っているはずです。そんな良い子が、唯一の親である槇寿郎さんを迎え入れないと本当に思いますか…?」
桜は槇寿郎に近付きながら、少しでも気持ちが伝わるように言葉に力を込める。