第3章 新しい世界
(あれ…?そういえば私、何でこんな格好をしているんだろう。庭に来るまでどうしていたんだっけ…。)
桜は口元に手をやり眉を寄せた。
(ここに来たばかりの時は覚えてたような気がするのに。思い出せない…。)
(何だろうこの感覚…誰かに記憶をいじられているような………怖い………。)
底しれぬ不安が桜を襲った。
千「あ!あの!いい香りですよ!」
暗い顔になった桜に向かって千寿郎は慌てた声を出した。
ハッとして桜も顔を上げる。
「あ、違うの。ありがとう…。」
そして困った顔をしてまた俯いた。
「今ふと気が付いたんだけど、ここに来るまでの記憶がなくて…それで不安になったの…。」
「ただ、さっき言った友達に言われた事は覚えてる。願いを託すって…。」
ぼーっと遠くを見ながら胸に手を当てる。
千「願い…ですか…?」
「うん。その友達が神様だった時の事を思い出しながら言ってた。
『たくさんの尊い人の血が流れた時があった。その時私は無力で、ただ見ているだけだった。その人達は恐ろしい存在と身を削りながら戦う尊い人達だったが、私の事を知らず、信仰してもらえなかった為に治せなかった。私の心残りを託す事をどうか許して欲しい。』
……って。」
まるで今聞いたかのように不自然にスラスラと言葉が出てくる。
それを聞いた千寿郎は真剣な顔で黙ってしまった。
しばらくして顔を上げると、
千「桜さまは…鬼を知っていますか?」
と訊いた。