第23章 ※愛し方
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「杏寿郎さん…。」
顔を隠したままの桜が小さく声を掛けると、杏寿郎はその弱々しい声に首を傾げた。
杏「どうした。」
「恥ずかしいです…千寿郎くんの前ではやめてください……。」
杏「そうか。」
杏寿郎ははっきりとした返事をせずに自室の襖を開ける。
その音に桜はパッと手を顔から離すと肩を揺らして固まった。
(お布団…。新しい知識と合わせて考えると、ラブホテルはきっと子供を作る為だけの施設じゃない。恐らく子供を望んでない性交もする…それなら私と無関係じゃない。ホテルの一室ってこのお部屋と何が違うんだろう…ほとんど同じなんじゃ……。)
桜は朝に得た "子を望んでいなくても欲情すれば性交をしたくなる" という知識によって、今まで密着して寝ていた事がどれだけ大胆な事であったのかを知ってしまった。
そしてどのくらい接すれば欲情させてしまうのかをまだ把握出来ていなかった。
腕の中から下ろしてもらうと、桜は無意識に杏寿郎の体を拒絶するように軽く押す。
それは杏寿郎が欲情して苦しくならないようにと思い遣ってのことであったが杏寿郎は眉を寄せた。
杏「早くも気持ちがすれ違ってしまったのだろうか。」
杏寿郎はそう呟くと、桜の腰を抱いて離れた分を取り戻すように抱き寄せた。
すると余裕を失くしていた桜はビクッと体を揺らしてあからさまに ぐっと手を突っぱねて杏寿郎を拒絶した。
無意識ではない拒絶に杏寿郎は目を見開く。
(む、無防備ってなんだっけ…今どうしたらいいの?…このお部屋に一緒にいる事自体だめなんじゃ……?)
「あ、あの!私は客間で休みます!では!」
そう言うと桜は動揺しながら走って部屋から出て行ってしまった。