第23章 ※愛し方
千「確かに桜さんの事はお慕いしていますが、」
―――ギッ
廊下の軋む音と共に杏寿郎が完全に固まった。
それを見て千寿郎は目を見開き冷や汗を流す。
千「あ、姉のように慕っているのです!恋慕の情ではありません!!」
それを聞くと杏寿郎は脱力し、息を吹き返した。
そして冷静になると、目の前の弟は泣き出しそうになっていて、婚約者に至ってはその場に居もしない事に気が付く。
杏「よもや…また千寿郎にみっともない所を見せるとは。」
そう言うと杏寿郎は千寿郎を努めて優しく撫でる。
杏「すまない。兄は少し調子を崩しているようだ。千寿郎にその様な顔をさせるとは不甲斐ない。元に戻れるよう精進するのでどうか許してほしい。」
千寿郎はそれを聞くと安堵した表情を浮かべる。
千「いえ、いいんです。…あの、少し早いですが、僕は昼餉の支度をしてきます。お二人も鍛錬を切り上げて…その、お部屋でゆっくりお話しをされては…?」
千寿郎はそう言いながら杏寿郎ではなく、その後ろにある廊下の曲がり角を見た。
その視線に気が付くと、杏寿郎はすぐにバッと立ち上がり大股で曲がり角へ向かう。
「…わっ!なんで気が付い…ふあっ!!」
杏寿郎は桜を抱きながら戻ってくると、千寿郎に柔らかく笑い掛けた。
杏「千寿郎の言葉に甘えさせて頂く!俺の部屋にいるので用があればそちらへ来てくれ!」
杏寿郎はそう言うと 真っ赤な顔を両手で覆った桜と共に大股で自室へ向かったのだった。