第3章 新しい世界
当然桜の元の姿は人だ。
なので人に戻った後はもうユキの姿にはならないだろうと漠然と思っていた。
(ユキがこうさせてるの?どうやって?)
混乱しながら自身の胸に訊いてみるが、『会話はできなくなる』という言葉通り、いつも桜の独り言になってしまう。
(どうやってかは分からないけど…、どうしてかは分かる気がするよ……)
桜は近付く足音を聞きながら目を細めた。
(助けてくれたんだね……ありがとう。)
――この姿なら…男性と向かい合っても心強い。
千「…それでそのねこ神様は人間にもお姿を変えることができて…!何よりとてもお綺麗なのです!!」
?「それは楽しみだ!!」
千「ですが、どうやら記憶喪失のようで自分は人間だと思ってらっしゃるようなのです…。」
?「よもや…大事ではないか。」
興奮した声で話す千寿郎は、兄と思われる青年の手を引っ張りながら急いで庭にいる桜の元へ戻ってきた。
千「あ…桜さま、またお姿変えられたのですね!あ!それはそうとこちらにお上がりください!気付かず申し訳ありませんでした…!!」
そう慌てて縁側の奥の一室に案内しようとする千寿郎をちらっと見るが桜は動かない。
千「桜さま…?」
不思議そうに首を傾げる千寿郎。
申し訳ないと思いつつも桜は意を決したように口を開いた。
「な、なーおぅ…。」
返事の代わりにしたのは渾身の猫の鳴き真似。
青年との会話を避けたかった桜は、この姿では無理があるだろうと分かりつつも"ただの猫"のふりをする事にしたのだ。