第17章 覚悟と誠意、新しい関係
桜の真剣な瞳をじっと黙って見ていた杏寿郎は、桜が話し終えたあともしばらく大きな目を逸らさなかった。
だが、少し目を細めたあとふわっと桜を抱き締めた。
杏「君の気持ちは良く分かった。しっかりと考えてくれて嬉しく思う。」
優しく伝えた後 少し間を置くと、今度は強気な声を出す。
杏「だが、俺は諦めが悪い!覚悟してくれ!!」
そう言うとパッと体を離し、桜に口付けた。
桜はまさかこの会話の後にされると思わなかったので目を見開く。
だがすぐに拳を握ると、眉尻を下げて目をぎゅっと瞑った。
(また拒まないといけないの…?)
胸が苦しくなったが、抵抗しなくてはと胸を押そうとする。
…だが、押す前に手が止まってしまった。
(…交際の申込みは、今は受けられない…。交際していないのなら杏寿郎さんのこれを拒むのは当然…のはず。)
(なのに、拒む事が逃げる事のように感じるのは…何で……?)
桜は薄く目を開いて、確認するように杏寿郎の顔を盗み見る。
すると杏寿郎は大きな目で真っ直ぐこちらを見ていた。
「………っ!!」
あまりにも真剣な燃える目に 桜は思わずたじろぐ。
(最初、"覚悟してくれ"って言ったのは口付けの話だったんだって思った…。でも、何か違う…この目は………、)
混乱しながらも考えていると、何かに気が付いたように目を少し大きくした。
(…そっか…今 目の前にあるのはただの口付けじゃない。杏寿郎さんの意思表示だ。)
(最初に口付けをしたのは "責任を取る" 為だった…交際を断っても…また…こんな目で………、)
"諦めが悪い" と先に言われたが、目や肌でも杏寿郎の意志の強さを感じて桜は喉をこくりと鳴らす。
そして、再び目をぎゅっと瞑ると 杏寿郎の覚悟と向き合うように杏寿郎を優しく抱きとめた。
(…そういう事なら拒絶したくない。待ってくれるのなら甘えたい。…覚悟するまで時間はかかっても、私だって既に……。)