第97章 【番外編】花火大会
杏寿郎の浴衣はありがちな濃紺だ。
だが着ている本人がありがちではない。
そして髪もポニーテールに結っている。
髪型に関しては意外にも桜の要望だった。
苦しみながら『他の人にも見られちゃうけど、浴衣にポニーテール姿の杏寿郎さんと花火を見たい』と言ったのだ。
杏寿郎はあまりにも髪型を見られるので自身のそれを掴んで横目で見ながら首を傾げた。
杏「そんなに、」
「そういう仕草しないで下さい!お外では特に!」
杏「……分かった。」
目を瞑りながら言う桜に杏寿郎は困った様に眉尻を下げる。
杏(見たいと言っていた筈だが…。)
杏「まあ、良い。行くぞ。」
「は、はい!」
桜はパシッと杏寿郎に手を握られるとちらりともう一度杏寿郎を見上げ、再び頬を染めながら玄関へ向かったのだった。
杏「この駅、だが…。」
「既に人がいっぱいですね…。」
2人が遣る視線の先では歩道にブルーシートを広げる若者と、注意をしている警察官の声で溢れていた。
杏寿郎は人の多さにピリピリとしながら、桜の肩に手を回してぎゅっと体を密着させる。
桜はそれに頬を染めるも素直に従った。
そうして杏寿郎に守られながら歩いていると屋形船が見えてくる。