第97章 【番外編】花火大会
「わうっ」
杏「………。」
杏寿郎は無言で桜を抱き留めると脇の下に手を差し入れてきちんと立たせた。
根が素直な桜はそうされると居心地悪そうな顔をしながらも頭をぺこりと下げた。
「…ありがとうございます……。」
しかし、返事が来ない。
桜が不審に思って視線を上げると杏寿郎はにこにこと微笑んでいた。
それを見た桜は早くも自身が負けたことを確信した。
「早く帰りましょう!『この話はこれでお終いだな!』です!!」
杏「俺はまだ終いにしたくないぞ。君はあんな些細な事で拗ねてしまったのか。愛らしいなあ。君は、」
「お終いだな!です!!」
杏「君は不死川の事を想いながら名を出した訳ではなかったのだな。ただ俺にやきもきしてもらいたいと、」
「杏寿郎さん!怒ります!!」
桜は珍しくしつこい杏寿郎に眉を顰めた。
すると大人の余裕をすっかりと忘れていた杏寿郎はスッと器用に表情を操り、優しい笑みを浮かべた。
杏「すまない。意地が悪かったな。ただ君が愛らしくて堪らなかったんだ。許してくれないか。」
優しく穏やかにそう言われれば桜も怒れなくなってしまう。