第96章 夢が叶う時
杏「それはあの子等が未だ君の面影を恋人に求めていると知ったからだ。だから言ったろう。俺に似ているのなら諦めが悪いと。」
「……………え…?」
杏「分からなくて良い。この話は終いだ。」
「あっ、もう…。」
その年の誕生祝いは敢えて煉獄家の本家にて2人きりで行った。
大正時代の屋敷とそっくりに作られた縁側でかつて命を守る為の鍛錬に励んだ庭を見つめ、杏寿郎が独りで過ごした年月、そして2人で過ごした年月に想いを馳せる。
「……うまくやり直せたでしょうか。私は挽回できましたか?…幸せでしたか?」
そう問うと杏寿郎は庭を見つめたまま桜の肩を抱き寄せた。
杏「ああ。これ以上無いと言う程幸せだった。君はあの時何やら言いかけたまま消えてしまい、挙句 再会したら俺を覚えておらず、その上2年も拒絶されたこともあったが、それでも最後には全て約束を守ってくれた。子供も無事育ち、皆元気で逞しく愛らしい。何より最愛の人が妻になって寄り添ってくれた。これ程満ち足りた人生はない。」
前半に棘がある言葉があった気がしたが 桜はそれをスルーして後半の言葉だけを胸に仕舞い込んだ。
「私も幸せです。杏寿郎さんが側にいてくれなかったら私は幸せどころか無事ではいられませんでしたし…。」
そう言いながら居心地悪そうに笑う桜はどこか幼く見える。
杏寿郎は横目でそんな桜を盗み見るとスッと目を細めた。