第96章 夢が叶う時
杏「だが彼はプレゼントだと言ったぞ。友人だとも。」
「これは典型的な詐欺ですね…。日本人はカモにされやすいって本当だったんだ…。」
杏寿郎はブレスレットを返す為に外そうとしたが切らないと外れないようになっている。
杏「む。悪質だな。」
杏寿郎は特に気分を害した様子は無かったが、さっさと代金を支払わない2人を急かすように男が桜の手首を掴もうとすると目の色を変えた。
―――ダァンッ
杏「………すまない、桜。やってしまった。」
男の首を掴んで地面に叩きつけてしまった杏寿郎は背後にいる桜の冷ややかな空気から冷や汗を流す。
「すみません、ブレスレット切ってもらえますか。夫のも。」
桜は気絶していないもう1人の男にそう言うと ブレスレットを丁重に切ってもらい、杏寿郎の手をパシッと掴んで早歩きでその場を去った。
杏「桜…、桜。すまない。怒っているのか。」
「もう!警察がきちゃったらどうするんですか!でも私の為だということは分かっているのでもういいです。さっきは早くあの場から離れないと杏寿郎さんが連れてかれちゃうかと思ってピリピリしてしまっただけです。」
杏「そうか……。」
そう言って心底ほっとしたように微笑む杏寿郎の目尻には20歳の頃は想像も出来なかった優しい笑い皺が出来ている。
今ではすぐ表に出てくるようになってしまったこのギャップが50代後半にも関わらず杏寿郎が生徒に未だモテていた理由の1つだった。
(ずるい人だな…。)