第96章 夢が叶う時
「あの子達上手くやれているでしょうか。」
杏「大丈夫だろう。頑なな所はあるが周りの意見に全く耳を貸さないという訳でもない。」
「そうですね。でも…上手くやれても もう少し実家にいてほしかったです。」
それを聞くと杏寿郎は運転しながら少し首を傾げる。
それに答えるように桜は微笑みながら口を開いた。
「見る事が叶わなかった25歳までの杏寿郎さん…に似た姿を見たかったからです。」
杏「君は27歳の時の俺も見ていないぞ。俺を遠ざけていたのでな。」
「う…。」
そんな相変わらずな2人はまだ教師をしていたが 杏寿郎は先程の話題にも上がっていた通りもうあと数年で定年退職である。
桜は最後まで働かず、杏寿郎が辞めれば同じ時に辞めるつもりだ。
そして厚寿郎と桃寿郎がひとり暮らしを始めて巣立てば漸く2人は本当に2人きりになる。
杏寿郎はよく『君としたい事が山程ある。』と、定年退職した後の事も話すようになった。
人並外れた体力のある杏寿郎は未だに桜を抱えて歩くことなど造作も無かったし、行こうと思えばどこへでも行ける。
大正時代でも、現代でも、ずっとずっと叶わなかった "2人きり" は2人の新しい希望となっていた。
そして、とうとう長い教師人生の幕が降りた。