第16章 目覚めた女と諦めない男
唐突な杏寿郎の口付けによって唇を塞がれていたのだ。
桜は一瞬大きく目を見開き、思い切り杏寿郎の胸を押し返した。
しかし案の定杏寿郎は動じず、桜の後頭部をがっちりと掴んで口付けをやめない。
それどころか目を薄く開け、桜と目を合わせると心底嬉しそうに頬を緩ませた。
(…っ!…ご、強引にも程がある……!!)
余裕を失くした桜は微動だにしない杏寿郎に最終手段のビンタをしようと手を振り上げた。
―――バチーンッッ
杏「桜!?」
距離感が掴めず、桜は両者の頬を叩いてしまった。
桜は痛みに涙を滲ませ、『う"ーっ』と唸りながら自身の頬を撫で上げる。
悔しいことに杏寿郎はノーダメージのようだった。
杏寿郎は頬に留まっていた桜の小さな手の上に大きな手を重ねる。
そして空いた方の手で優しく頭を撫でた。
杏「すまない。初めてだったので舞い上がってしまった。だが、何の覚悟もなしに君に軽々しく口付けをした訳ではない。」
「ひ、平手打ちはやり過ぎでした。すみません。でも…、でも、私だって初めてだったんですよ…。杏寿郎さんが軟派な事するとは思ってないですが、強引すぎます…心臓が持たない……。」
"初めて" と聞くと杏寿郎はあからさまに嬉しそうな顔をする。
だが、もう片方の手も頬に当てて両手で桜の頬を包むとすぐに真剣な目を向けた。
杏「俺はこんなにも嫌がる女性に無理矢理口付けをして、それでも責任を取らないような男に見えるか。」