第16章 目覚めた女と諦めない男
桜は杏寿郎の粘り強さに、呆れたような感心したような気持ちになった。
そして強く抱き締められたことによって息ができなくなった事を知らせようと杏寿郎の胸を掌でパタパタと叩いたが 杏寿郎は一向に気が付かない。
(死んじゃう……っ!)
桜は手探りして杏寿郎の長いもみあげをぎゅっと掴むと、思いっきり下に引っ張った。
杏「むぅっ!!」
自分の髪に捕まる桜のふるふると震える小さな手を見て、杏寿郎はすぐさま腕の力を緩めた。
杏「すまない!!大丈夫か!!」
「ぷはっ!……はぁっ……はっ………はぁー……。」
涙目の桜を見て杏寿郎は眉尻を下げる。
そして先ほど断られたのにも関わらず、懲りずに頭を撫で始めた。
その強引で与え続けられる温もりを感じながら、桜の中で杏寿郎に敵わないという気持ちが大きくなる。
(流されそう…。でも、明日の朝になってあの笑顔で『すまない!忘れてくれ!』とか言われたら…。あり得る……。)
「杏寿郎、さん……私は、あなたの事をとっても信頼…していますが、今回の事に関しては…、杏寿郎さんでも、きちんと責任を取れないと…思われます…っ!!」
息絶え絶えにそう告げると、杏寿郎は首を傾げた。
杏「責任を取ると約束すれば君は俺を見てくれるのか。」
「そんなの…今私を抱きしめてますし、またふわふわしてますよね…?それなら約束しても意味がな…っ…、」
桜は言い切れなかった。