第96章 夢が叶う時
厚寿郎と璃火は穏やかな波長が合うようでとても仲が良かった。
厚寿郎にとって璃火は放っとけない妹であったし、頼ってくれる存在は堪らなく愛らしかったのだろう。
それ故に杏寿郎の心配は少し軽いものとなった。
厚寿郎がわざわざ璃火のクラスまで出向いて睨みをきかせてくれたからだ。
璃火のクラスメイト達は穏やかそうな厚寿郎に油断していたが、璃火に男子が近寄れば千寿郎を思わせる冷たい殺気を放つ。
とは言え相手はまだ5歳の小学1年生だ。
明らかに度を超えた過保護である。
そんな事を知ってか知らずか厚寿郎は休み時間の度に兄や姉と共に見張りと牽制を繰り返し、それから3年間 厚寿郎が在学している間の璃火の恋愛事情は発展しない事が確定したのだった。
しかしその3年が過ぎないうち、つまり璃火が3年生になる頃に今度は桃寿郎が1年生として入学してくる。
あと1年待てば漸く璃火に近付けると思っていた同級生の男子達は落胆した。
厚寿郎とは全く異なる雰囲気を持つものの桃寿郎は桃寿郎で非常に厄介であったからだ。
桃「姉上!!ななめうしろの男が姉上をみょうな目で見ています!!!」
桃「姉上!!おとこはおおかみだと父上がはなしていました!!!今、6ぴきのおおかみにねらわれています!!!あそこの3人と、あのおとこと、あの2人です!!」
桃「姉上!!せんしゅうの男がまだあきらめていません!!!そういった敵がいちばん手ごわいことを俺はしっています!!!」
桃「姉上!!いっしょにかえりましょう!!!」
桜が復帰した駒校の中等部2年生になった彩火に頼まれた桃寿郎は休み時間になる度に璃火に向かって男子の行動を明け透けに、それも大声で伝えた。
すると男子クラスメイト達はそれを嫌がり、なるべく璃火に視線を送らないよう努め始めた。
そんなこんなで過保護に過保護に育てられた璃火は桜よりも酷い世間知らずへと育っていったのだった。