第96章 夢が叶う時
杏「璃火の友人を信じるとしよう。」
杏寿郎は『そんなに璃火自身には信用がないですか?』と少し不満そうに言いながらブラシを置いた桜をベッドに招くと 再び頷いて梳かれたばかりの髪に指を通した。
「私に似ているのなら大丈夫ですよ。」
杏「何度も言うが君に似ているから心配なんだ。」
そして入学式が近付いているその夜も2人は同じ言い合いをしたのだった。
―――
桃「はっ…はっ…はっ、」
一方、幼稚園の年中に上がる4歳の桃寿郎は父から教えてもらった剣道の鍛錬に夢中になっていた。
桃寿郎は4歳と思えぬ気迫を纏い、4歳と思えぬ集中力で4歳と思えぬメニューをこなす。
そして何より特徴的であったのが桃寿郎は杏寿郎と桜に似て集中しだすと周りの音が聞こえなくなった。
それ故に杏寿郎が毎回 無理矢理に道場から引き剥がさなくてはならない。
「末恐ろしいな…。鍛錬中の杏寿郎さんみたいだもの。どんどん似ていってる。あ、でもどこ見てるか分からない笑顔はしないですね。」
杏「どこを見ているのか分からない笑顔か。心当たりはあるが…、恐らくそれは幼い時からしていた訳ではないぞ。」
「え…?」
杏「隠したい感情がある時や何かをしながらも他の事を考えている時に取り敢えず浮かべていたのがそれなのだろう。今は出なくなったと思うが。」
「確かにここ何年も見ていないです…。隠すのが上手になられたのですか…?」
そんな会話をする2人は日曜の早朝に鍛錬をしている桃寿郎の様子を見る為 道場の入り口に立っている。
杏寿郎は息子の様子を見ながら腕組みをして桜の質問について考えるように眉を寄せた。