第96章 夢が叶う時
(ごめんね。でもお父さんはお母さんの人なんだ。)
そんな風に璃火に心の中で謝っていると杏寿郎は『俺とそっくりであっても弟の桃寿郎と恋仲にさせる訳にもいかない。君は他にどんな男がタイプな…、』と問いかけて固まる。
その沈黙が重くて桜は少し嫌な予感を覚えた。
杏「……君にも "理想のタイプ" くらいはあったのだろう。どんな男を望んでいたんだ。俺の他にもちらりとでも良いと思った男はいるのか。」
「もう。どうしてそんな話題に…、」
杏「話を逸らすという事は図星なのだな。」
別に図星という訳では無く、ただ単に未だに居もしない相手にまで嫉妬してしまう旦那が愛らしく感じただけであったが 桜が余所見をした事があると認めたと勘違いした杏寿郎は冷静さを欠いて額に青筋を浮かべる。
杏「もう十二分に理解していると思うが俺は独占欲が強い。ちらりとだとしても許し難いぞ。どこの誰だ。何時だ。俺と出会う前か。…それとも男と接する機会の多かった大正時代か。よもや俺と恋仲になっている時に余所見をした訳ではあるまいな。」
そう噛み付きそうな勢いで問い詰める杏寿郎を桜は慌てず何も言わずに微笑みながら観察していた。
昔は慌てたこの過剰反応も桜は楽しむ余裕が出来ていたのだ。
そんな桜を見て杏寿郎はふと我に返る。
杏「………………そうか。君はそんな器用な子ではなかったな。」
「一途と言ってください。想いを疑うのは良くないですよ。」
杏「それは本当にすまない!君が認めたと勘違いをした!!」
相も変わらずそんなじゃれ合いをする2人を三つ子は『よその親と違う』と気付き始めていた。