第96章 夢が叶う時
そうして産まれた桃寿郎は皆に可愛がられながら脅威のスピードで成長した。
そのスピードは慶寿郎と悠寿郎を超えており、普通の子供がおすわりを出来るようになる頃には伝い歩きをしたし、掴まり立ちをし始める筈の頃には自立して歩いていた。
また、杏寿郎の雰囲気とほぼほぼ同じである事から桜は杏寿郎の幼い時を見ているような錯覚に陥ることもあった。
「桃寿郎は名前通りお父さんに似てるねえ。」
ある夕方 そう言いながら柔らかな髪の毛を撫でると桃寿郎は桜の手を捕まえ、まだ生え揃っていない歯で齧る。
桃「ごあん!!!」
「いた…っ、お母さんの手はごはんじゃないよ。食べられないの。」
桜はそう言いながら桃寿郎の手を自身の手から離させた。
しかし肝心の口が離れない。
「困ったなあ。さっき食べたばかりなのにもうお腹が空い、いたっ」
杏「桃寿郎、桜を食べるんじゃない。」
声のする方を向くといつの間にか帰ってきていた杏寿郎がスーツ姿のまま眉を寄せていた。
「杏寿郎さん…。お帰りなさい、お迎えに行かずすみませんでした。」
杏「桃寿郎。」
杏寿郎は『気にするな』と言うように桜の頭を撫でながら桃寿郎に低い声を出す。
すると桃寿郎はパッと口を離した。