第95章 続々と
杏「桜、」
彩「お母さん。お腹なでていい?」
「わ、びっくりした…。もちろんいいよ。おいで。」
突然現れた彩火にそう言いながら杏寿郎にもたれ掛かった体を起こそうとすると 杏寿郎はグッと桜の肩を抱いて留めさせる。
その肩を抱いた腕はちょうど制止するような彩火の一言のせいで一度止まっていた腕だった。
「あ、の…、」
杏「口実に桃寿郎を使うとは悪い姉だぞ、彩火。そして残念だがこのままでも腹は撫でられる。」
彩「……………………。」
「もう…またへんなこと言って…。」
杏寿郎と彩火が桜の理解が及ばないところで衝突する事はよくあった。
彩火は杏寿郎が桜に触れる事をあまりよく思っていない。
昔に放った『お父さんはお母さんのだけど、お母さんは彩火の。』という言葉が物語っているように、桜から杏寿郎に触れる事については許容出来るのだが、逆は全くの別物なのだ。
とは言っても彩火は杏寿郎の事が嫌いな訳ではなく、それどころかなかなかに懐いてはいる。
それを分かっているが故に杏寿郎も彩火に好かれようとして機嫌をうかがったりはしないし、桜に触れる事もやめない。
彩「………………。」
「…………彩火…?」
口達者ではない彩火は黙ったまま燃える炎色の瞳でたっぷりと杏寿郎を不機嫌そうに見つめた後、桜の前にそっと膝をついて腹を撫でた。
すると恐ろしい反応速度で桃寿郎が蹴り返す。