第95章 続々と
「…今は…杏寿郎さんといる時は平気だったのに……、」
杏「つまり君は俺の居ない所で泣いていたのだな。俺の前で泣くのは嫌なのか。」
「いや…というより、杏寿郎さんが近くにいると悲しくならなかったから…。」
杏「今は悲しくなったのか。」
「悲しくはないです。でも…、なんだかいっぱいいっぱいで……勝手に出てきて…、本当大した理由もなくて……、」
杏「分かった。とりあえず沢山泣くと良い。昔にも言ったが泣く事自体に意味がある時がある。君の場合、典型的なそれだ。」
(………………………あれ…?)
桜は頷きつつも 抱き締めてくれると思っていた杏寿郎がただただ自身の泣き顔を微笑みながら見つめているので首を傾げた。
しかし杏寿郎が涙が溢れる度に甲斐甲斐しく拭ってくれるのでその為に顔を見つめているのだろうと解釈した。
勿論、桜の解釈は誤りである。
杏(俺に気持ちを吐き出せれば1人で泣くほど溜まらないだろう。……Win-Winだな。)
桜を心配する気持ちが1番大きかったが、杏寿郎にとっては副産物も大きかった。
ふわふわとしている割にたまに図太い桜は母親として随分と順調に成長していた。
その過程で桜が泣くことも滅多に無くなっていたのだ。
その桜が幼い顔で自身に縋り、顔を隠さずに見上げながらぽろぽろと涙を溢している。
それは杏寿郎にとって明らかな褒美であった。