第95章 続々と
その感触を母親の桜が分からない筈もなく、それ故に杏寿郎は燃える瞳を真っ直ぐ桜に向けた。
杏「桜、隠し事は無しだ。俺達はすれ違いで痛い目に遭った事が複数あるだろう。きちんと話そう。例え俺の事を思い遣っての行動であろうと勘づかれてはもう遅いぞ。話してくれなければ俺は辛くなってしまうので本末転倒だ。」
「でも………、いえ、そもそも…杏寿郎さんは関係ないかもしれないじゃないですか。」
杏寿郎と関係があるのだとバレバレになってしまっている事に気付きもせず、しどろもどろとしながら桜はなんとか返事をする。
すると杏寿郎は少しだけ呆れた顔をして小首を傾げた。
杏「子供の件で困った事があれば必ず俺を頼る。男関係の問題は既に解消した。となれば数日前に心当たりがある。君は俺の事が大好きだろう。君が黙っているのは俺に心配を掛けさせない為だ。違うか。」
「……………………………………。」
桜はその様にぽんぽんと言い当てられるとは思っていなかった為 呆けて口を薄く開いたまま固まってしまった。
それを見て杏寿郎は微笑みながら桜の下唇を親指で撫でる。
「あ、」
杏「恐らくマタニティブルーというやつだろうな。話すと楽になるらしいぞ。溜め込むのは良くない、話してくれ。」
そう言われ、頬を指の背でするりと撫でられると桜は僅かに体を揺らして杏寿郎と目を合わせた。
「ですが……、自分でもよく分からないんです。泣くような事ではなくて…、だから、」
杏「そうか。構わないので話してくれ。」
杏寿郎が『引く気はない』という意思を空気で、言葉で、嫌と言う程伝えると 桜は眉尻を下げて涙を滲ませる。