第16章 目覚めた女と諦めない男
杏「顔を上げてくれないか。」
そう言うと杏寿郎は桜の片頬に手を添える。
ビクッと揺れる桜を見て杏寿郎は面白そうに微笑むと、そのまま優しく顔を上げさせようとした。
「えっ!ちょ…っと、まって…!」
桜は慌てて杏寿郎の腕を両手でパシっと掴んで止める。
「杏寿郎さん…い、一度落ち着きましょう……。こんな触れ方をして後々恥ずかしい思いをするのは…貴方です……。そして私も巻き込まれて恥ずかしくなります。気まずくなります。……本当に勘弁してください。」
冷や汗をたらたらと流しながら説得を試みるも、上手いことを言えずに桜は只ぐるぐると目を回した。
杏「何故だ。俺は恥じるような事はしない。君に恋仲の男がいるのならこの行為を恥じるが、他にどういった理由がある。」
杏寿郎の不可解そうな声に桜は眉尻を下げる。
(どうしよう…躱せそうにない…。でも、私は隠し事が上手じゃないからこのまま接していたらこの姿も桜なのだとすぐ見破られてしまうかも知れない。そしたら…、隠し事をしていたことが先に分かられてしまう。杏寿郎さんも猫に恋人みたいな絡みをしてしまったと恥ずかしくなるんじゃ…。もう話してしまおうか…。でも…これから一緒に寝られなくなるし……ってそんな事考えてる場合じゃないかな…どうしよう……。)
そんな事をたらたらと思っていると、杏寿郎が桜に掴まれていた腕をまた動かした。
顔を上げられそうになり桜も自身の手に再びグッと力を入れたが全く効果がなく、先程は杏寿郎が自ら動きを止めてくれていただけなのだと気が付く。
そして一瞬で炎色の目に捕まってしまった。
杏「取り下げるつもりはない。」