第95章 続々と
杏「彩火、お前はただでさえ体が小さいのだから全部食べなければならないぞ。兄達を見ろ。……彩火。聞こえるか。」
問い掛けに反応をせず、それどころか咀嚼をどんどんと遅くする彩火を見て鼻を摘んでみる。
すると目を瞑り、きゅうっと眉も寄せた。
杏(小さな桜を見ているようだな。)
杏「彩火。どんどん遅くなっているぞ。要らなければ俺が食べてしまうが良いか。」
それを聞くと彩火はパッと目を大きく開けてペチッと杏寿郎の手を押さえる。
彩「………………。」
口数の少ない彩火は目だけで語る事が多く、この時も『許しがたい。』といった感情を瞳で表していた。
杏寿郎はその様子を笑うと再び頬をふにふにと押す。
杏「では取られぬうちに食べなくてはな。」
杏寿郎がわざと離乳食に手を伸ばすと彩火は慌てて先にそれを掴み、口に運んだ。
「ありがとうございます。妙な味わい方まで似ちゃうとは…。」
杏「隙だらけだな。男と食事はさせられそうにない。」
気が早い杏寿郎に桜は『学校に行けば避けられませんよ。』と笑いながら言って服を直し、慶寿郎を座らせる。
杏寿郎は順番を守れた慶寿郎の頭を撫で、彩火に心配そうな目を向けた。
杏「どの様な子に育つのだろうか。君の様な無防備な子になればとても1人では歩かせられないぞ。慶寿郎と悠寿郎に彩火を守るよう よくよく言わねばならないな。」
「絶対に守ってくれます。杏寿郎さんみたいに。」
そう言うと杏寿郎は柔らかく微笑んでじっと子供達が見つめる中 桜にキスをし、真っ赤にさせたのだった。