第16章 目覚めた女と諦めない男
「あ…妖ではないです。でも、意思があるという点では同じですね!」
そう言うと桜は少し気持ちが楽になったような、気の抜けた笑顔を見せた。
杏「…そうか。」
証拠がない為にまだ複雑な顔で眉を寄せる杏寿郎を見て、桜はがっかりとした目を向ける。
すると、杏寿郎は桜を申し訳なさそうに見つめ返して眉尻を下げた。
杏「すまない。このような非現実的な事は今までの経験になかったのでな。どうも頭が追いつかない。」
「…………自分だって非現実的な化物と闘ってるじゃない…。」
思わず桜は拗ねたように小さく呟いた。
すると杏寿郎はぴたっと動きを止め、自分らしくない思考に目を見開く。
杏「化物…鬼か?鬼は非現実的な化物ではない。」
杏「長きに渡り鬼と深く関わってきた煉獄家の人間なら、幼い頃からそう教わる。非現実的な化物などとは絶対に思わない。」
そう言うと、杏寿郎はパッと明るい表情を作る。
杏「ならば!君は紛れもなく俺が作った人間ではないと!そういう事になるな!!」
桜は、杏寿郎の思考の切り替えの速さに面食らい、言葉が出なかった。