第16章 目覚めた女と諦めない男
杏寿郎はその妙な問いかけに少し目を大きくするが、すぐに真面目な顔になった。
杏「確かに現実のような会話が夢の中で続く事は可怪しいと分かっているのだが…、」
そこまで言うと少し悩むように眉を寄せる。
杏「……だが、感覚は明らかに現実ではないように思える。先程までは特にそうだ。」
「……そう、ですか…。」
(そんなに夢だと錯覚しちゃうんだ…。という事は今の杏寿郎さんはやっぱり正気じゃない。)
(…体を離して目を覚まさせるか、夢の中で断るか……断る方が圧倒的にハードルが低いかな…。)
そう思うと桜は気まずそうに杏寿郎の目を見て口を開いた。
「杏寿郎さん。嫌いではありませんがお受け出来ません。」
桜は眉尻を下げた弱気な顔の割りに、しっかりとした声を出す。
一方、まさか夢の中で失恋するとは思っていなかった杏寿郎は目を大きくして口を薄く開いた。
杏「理由を聞いてもいいだろうか。」
そう問われると桜は視線を逸して眉を寄せた。
(理由?杏寿郎さんの欠点なんて分からない…。でも杏寿郎さんの考えを何とか変えないと…。)
(…私が意思のある生き物だって分かったら、恥ずかしくなって諦めてくれるかな……。)
「……それは………あ、あなたが私…の存在?を…勘違いしているから、です…。」
悩みながら可怪しな返事をする桜に、杏寿郎も流石に首を傾げた。
杏「…どういう事だろうか。先程の妙な質問が関係しているという事は予想がつくが、夢じゃないとなると…君は一体…、」
そう言いながら杏寿郎はぐっと眉を寄せて考える。
杏「よもや君は…妖の類いなのだろうか…?」