第93章 念願の
「杏寿郎さんの声はすぐに覚えてしまいそうですね。」
杏「ずっと共に居るのだから小さくとも優しい君の声を先に覚えるだろう。だが俺の声はその次に覚えてもらいたいものだな。慶寿郎、悠寿郎、彩火。俺が君達の父親だぞ。冬まできちんと桜の言う事を聞いて元気に産まれて来い。」
「ふふ、『言う事を聞いて』って…お腹の中で悪い事なんて出来ませんよ。」
杏「喧嘩をして君を困らせるかも知れないだろう。」
杏寿郎はふざけてそう言いながら再び桜を優しく抱いて頭を撫でる。
杏「桜は偉いなあ…。」
「………………。」
この言葉は子を授かってから杏寿郎がよく使う言葉だった。
初めは『何も偉いことはない』と訂正していたが、杏寿郎が頑として聞き入れない為 桜は折れてもう何も否定せず受け入れるようにしている。
杏「偉いなあ。愛らしいなあ。」
「……………………。」
どさくさに紛れて妙な褒め言葉も貰った気がしたが桜は気が付かなかったふりをした。
しかし目ざとい杏寿郎は桜の赤くなった耳を見て目を細める。
杏「君は本当にすぐ赤くなるな。表情を見なくとも流しきれなかったことがバレバレだぞ。」
「う…もう耳が聞こえているのに……。」
桜が恥ずかしそうにそう言うと杏寿郎は笑い声を上げた。