第93章 念願の
槇「いよいよ名を考えなければならないな。火が付く名だったな。火、火……火炎…、」
瑠「槇寿郎さんは参加できませんよ。桜さんと私と由梨さんで決めることです。」
杏「俺は父親です。案を出すだけでも参加させてください。」
「案を出すだけならもちろん良いですよ。でもいちいちお返事しなくても良いですか?その…申し訳ないのですが杏寿郎さんの案は…絶対に採用されないので……。」
杏「…………よもや。」
桜の心から思い遣ったと思える優しい声色と、それと真逆の容赦の無い言葉に杏寿郎はそう呟いたきり黙り込んだ。
そうして書道教室に由梨が来る度に女3人で名前を考え、考えに考えた末、結局ありきたりな名に決まった。
「男の子は先に生まれた子が『喜ばしく幸せに満ちている』という意味を持つ "慶" から "慶寿郎(けいじゅろう)" 。後に産まれる子が『ゆったりと落ち着いた心を持ち、優しく気が長い』という意味を持つ "悠" から "悠寿郎(ゆうじゅろう)" です。」
杏「良いな!!大賛成だ!!!」
杏寿郎の勢いに桜は花のように笑う。
「…それから、女の子は『素直で家庭運に良い子になるように』と願って "唯" にしようかとも迷ったのですが、健康を願う "彩(あや)" にしました。」
杏「彩…火か。」
「はい。」
杏寿郎は桜を緩く、そっと大事そうに抱き締めると何度も何度も頭を撫でた。
そして体を離すと今度は腹を撫でながら名を呼び掛け始める
つい先日病院へ行った際に 先生から『そろそろ聴覚が働くようになったと思いますよ。』と伝えられていたのだ。