第16章 目覚めた女と諦めない男
「…ほ、他に何かしたんですか……?」
桜は素直な謝罪をされると怒るに怒れず、困ったように眉尻を下げて質問を続ける。
杏「頬を撫でたり、頭を撫でたり……すまない!先ほど欲に負けて額に口付けをしようとした!」
「………。」
呆けた顔をして動かない桜に気が付いた杏寿郎は目を大きくする。
杏「安心しろ!未遂だ!君が起きてくれたので未然に防げた!!」
「…そう、ですか……。」
桜は少しだけ頬を染めて自身の額を触る。
それを見ると杏寿郎は少し嬉しそうに目を細めてからそっと手を伸ばし、努めて優しく桜の頭を撫で始めた。
――――――
暫く撫でていると、杏寿郎は不満そうに眉を寄せてからスッと真顔になる。
そして少し首を傾げて じーっと桜の顔を見つめ始めた。
あまりにも杏寿郎の圧が強いので、桜は何か余程の事があるのかと心配になってしまった。
一方、杏寿郎は目を逸らさず見つめ返してくる桜を見て眉尻を下げた。
杏「……君は、抱擁されながら男にこれ程近くで見つめられても余裕があるように見える。慣れているのか?」
そう言われて距離を今さら自覚した桜はピシッと固まる。
対して 杏寿郎は否定しない桜に再び不満そうな顔をした。
杏「正直に言うと、俺は先程からもっと触れたくなる気持ちを必死に抑えている。俺ばかり余裕が無いようだな。」
杏「君にとって俺は兄のようなものなのだろうか。恋人のように触れれば意識してくれるか?」
杏寿郎はそう言うと腕に力を込めた。