第93章 念願の
「あと1年ですね。理事長さんや校長先生に前々から伝えていたので もう次年度から新しい物理の先生が来るようです。」
杏「そうか。ゆっくりと引き継げるな。」
「はい。」
杏寿郎が返事をする桜の顔を盗み見るとその顔に暗い影は少しも見当たらない。
桜は珍しく杏寿郎の視線に気が付くとチラッと見つめ返して微笑んだ。
「この5年間、悔いがないように過ごしてきました。それでもまだあと1年も残ってます。満足です。それに…、」
一度言葉を切った桜は頬を緩ませて染めると幸せを隠せていない声色を出す。
「…やっと……やっと、杏寿郎さんとの子供を作れるんですから残念だなんて少しも思ってないです。」
子供を減らしたいと言われた事があった為 それを聞くと杏寿郎は少し目を大きくさせ、そして嬉しそうに笑った。
杏「そうか。俺もとても楽しみだ。」
そんな事を言って微笑み合いながら廃校舎裏から出ると再び2人は卒業生に捕まったのだった。
そうして杏寿郎達は元鬼殺隊士のいない普通の生徒達を教え、普通の教師として仕事をこなし、ありふれた普通の、そして忙しくも充実した掛け替えの無い1年を過ごした。
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実「あっという間だったなァ。栄養摂って体大事にしろよォ。」
「はい!ありがとうございます。」
天「産休って言ってもまだ出来てねぇんだろ…。」
杏「うむ!だがすぐ出来るのでな!!」
天「何で言い切れんだよ。」
天元の言う通りまだ子を授かっている訳ではない桜は 生徒達に祝いの言葉を貰う度に複雑そうな笑みを返して礼を言っていた。
対して杏寿郎は満面の笑みで対応していた。