第93章 念願の
「……でも、私も1年後の春にはここを離れてしまうから 皆がいなくても最後の1年、精一杯頑張らなきゃね。」
無「うん。頑張って。」
無一郎は淡白だけれど優しい声色を出し、桜を優に超える高さから頭を撫でる。
「もう、今日が終わるまでは生徒だよ!そんな風に、」
杏「時透!煉獄先生の言う通りだぞ!!」
そう大きな声を掛けると 桜と同様にもみくちゃにしてくる式後の卒業生を撒いて少し休憩しに来た杏寿郎が廃校舎裏に大股で入ってきた。
結局呼び名は杏寿郎が『一ノ瀬先生を煉獄先生、俺は杏寿郎先生と呼ぶように!!』と決めてしまった。
正直なところ桜は杏寿郎に好意を抱いている女生徒が "杏寿郎先生" と呼ぶのは面白くなかったが『妻の余裕の見せ所!』となんとか耐えた。
無「その呼び方、今は生徒が入れ替わって定着しつつあるけど これからどうするの?煉獄さんはまた煉獄先生に戻るの?今の呼び方桜は嫌がってるみたいだけど。」
「無一郎くん…!」
杏「桜が嫌がっている?」
不思議そうな顔をして腕を組む杏寿郎は30代特有の大人の魅力を増しており、桜はその一挙一動を見るだけで頬が熱くなりそうになり パッと視線を逸らす。
そんな桜を心配して杏寿郎は顔を覗き込もうと身を屈めた。
杏「煉獄先生?すれ違いはごめんだぞ。あとで話そう。」
「……はい。」
桜はそう言わないと杏寿郎が引き下がらないであろう事を確信していた為 渋々そう答えた。