第92章 祝福の日
ぐすぐすと泣いていた勇之には悪いと思ったが、入場の際はドレスを踏んで転ばないようにする事に集中していて記憶にはあまり残らなかった。
ただ、瑠火がやたらと写真を撮っていたような気はしている。
緊張の中、そんな桜に構わず式は進んでいく。
(……杏寿郎さんが格好いい。)
普段はスーツでもシャツ姿が多い杏寿郎のタキシードとポニーテール姿はやはり見慣れず、桜は初めて出会った時のように胸を高鳴らせていた。
杏「桜?」
呼びかけられて初めてベールを上げられていた事に気付き、桜はハッとした後 固まる。
(あれ?私もう『誓います』って言ったっけ…。)
今がどの状況なのか分からなかったが杏寿郎が身を屈めると桜は誓いのキスなのだと気付き、ぎゅっと目を瞑った。
その初々しい反応を薄目で見つめていた杏寿郎の口角が上がる。
杏「……相変わらず酷く愛いなあ、桜。」
「きょ、」
更に赤くさせた直後に杏寿郎は誓いのキスにしては長いキスをし、顔を離した後 真っ赤な桜の頬を優しく撫でた。
誓いのキスでここまで相手だけを意識して赤くなった花嫁はなかなかいないだろう。
桜は祝いの言葉と拍手で我に返ると一連の流れを見られていたのだと知りキャパオーバーを起こす。
そしてフラフラとしだすと杏寿郎は桜を横抱きにして颯爽と式場を後にした。