第16章 目覚めた女と諦めない男
杏「誤か…むぐっ!」
杏寿郎が大きな声を出そうとしたので 桜は杏寿郎の口を慌てて抑えた。
(この前みたいな大声出されたらユキが起きちゃう…!)
「その全力の大声だけは封印してください…!」
必死に頼むと、杏寿郎は "分かった!" とくぐもった声を出した。
それを聞いて桜は ほっとした表情になったが、自身が杏寿郎の口に手を当てている事に気が付くと また顔をパッと赤らめてすぐ手を引こうとする。
だが杏寿郎はすかさずその手を掴むと ぐいっと自身に引き寄せた。
その顔はすっかりいつもの強気な笑顔に戻っている。
杏「俺は君の事を知りたい!」
ストレートな言葉に真っ直ぐな瞳。
煉獄杏寿郎の持ち味であり、高い攻撃力のある魅力の一つだ。
「…っ……な、何を…。」
桜は杏寿郎の勢いに押されて余裕がなくなる。
掴まれた手もどうにかしようと頑張ったが、全く離してくれそうになくて眉尻を下げた。
杏「そうだな。恋仲の男はいるのだろうか!」
最初の質問から口説き文句になっていることに杏寿郎は気が付かない。
「…い、いえ……。」
見てはいけない杏寿郎の一面を覗き見てしまった気がして、桜はまた赤くなる。
その頬に杏寿郎は大きな手のひらを添えると、俯くことを阻止した。
(ああもう…!杏寿郎さん様子がおかしい…夢だと思ってるんだ……。)
杏「そうか!俺もだ!抱きしめてもいいだろうか!」
「…えっ!?……な、何で……。」
杏「……だめか…?」
またしても眉尻を下げて弱気な声を出す。
(…そんな顔されたら、何て言って断ればいいのか……。)
眉尻を下げておろおろと悩んでいる桜を見ると、杏寿郎は太陽のような笑みを浮かべてぎゅっと抱きしめた。
「…っ!ま、まだ良いと言ってません…!」
杏「すまない!だが、拒まなかったのでな!君は今起きているのだから嫌ならしっかりと拒んでくれ!!そしたら必ずやめると約束する!」