第16章 目覚めた女と諦めない男
杏「愛いな。」
柔らかい表情で杏寿郎は呟く。
それを聞いた桜は声の甘さに違和感を感じてハッとした。
そしてすぐに青くなる。
「……え!?…あっ!!…目が覚めて………、」
そう言い、一瞬 杏寿郎から距離を取ろうとしたが、何かに気が付いたように肩を揺らして思い留まる。
(今ここから離れたら杏寿郎さんの意識もハッキリさせてしまう…そしたらどう対応すれば……。)
そしておろおろとした後、赤くなった顔を隠すように俯いた。
一方、杏寿郎はその酷く慌てた様子を見ると余裕を取り戻し、桜の髪を優しく梳いた。
桜はビクッと震えはしたが、固まったまま動かない。
杏「顔を見せてくれないか。」
桜はしばらく黙ったあとふるふると首を横に振った。
それを見て杏寿郎は眉尻を下げる。
杏「…………どうしてもか…?」
初めて聞く杏寿郎の弱気な声色に思わず桜はびっくりしたように顔を上げた。
杏「…………。」
杏寿郎も驚いたように目を大きくする。
羞恥の色を浮かべた桜は、くらくらとする何とも言えない力を持っていた。
杏「その顔は…良くないな……。」
杏寿郎はぞくぞくとする感覚を覚え、低く呟く。
(顔が…好みでないと言われても……。)
桜はあからさまにショックを受けた顔をした。