第91章 流れる月日
杏「俺のは……後ででも良いだろうか。」
その妙に浮かない声色に桜はきょとんとしながらも頷いた。
由(2人きりの時に渡したいのかしら。)
勇「何だ、杏寿郎君は用意をしてこなかっ、」
由「後でが楽しみね、桜。」
「うん!でも日付けが変わった頃にもう貰ったのよ。これと立派な色留袖を…。まだあったんですね。」
両親に身に着けているネックレスとブレスレットを見せると 桜は少し困った様に杏寿郎に微笑んだ。
杏「祝いの席だからな。何も渡さないという発想が無かった。」
そう言う杏寿郎が誕生会の為に用意したプレゼントは杏寿郎好みの白いフリルの付いたエプロンや揃いの茶碗、箸、パジャマなど誕生日プレゼントと言うよりも結婚祝いのような物であった。
杏(喜んでもらえるだろうか。俺が贈って嬉しい物を用意してしまった。今からでも相応しい物を買いに行った方が良いだろうか。)
由(……………………。)
杏寿郎の険しい顔を見た由梨は少し首を傾げ、桜と勇之が電磁実験の装置に夢中になっている間にこっそりと杏寿郎に近付く。
由「どうされたんですか?」
杏「よもや。顔に出ていましたか。」
杏寿郎は大きな目を更に大きくさせ、車の鍵をまた強く握った。
杏「実は…女性へというよりも、夫婦へ贈るような物ばかり買ってしまったんです。」
由「なるほどねえ。桜はとっても喜ぶと思うわよ。」
そう言うと由梨はチラッとジャケットのポケットに手を遣っている杏寿郎を見つめる。
由「車にあるのでしょう?お見送りの時に2人きりの時間を稼ぐから頑張ってくださいな。」
杏「ありがとうございます!!!」
杏寿郎の大きな声に年甲斐も無くキットにはしゃいでいた2人は目を丸くさせて杏寿郎達を振り返った。